ウイスキーってどんなお酒? Part.2 製造工程

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ウイスキーのことを全く知らない、または、好きだけどウイスキーの知識は何も知らない。

そんな方に向けてまずは基本的な知識と代表的な銘柄をご紹介します。

Part.1では原料とウイスキーの種類

Part.2では製造工程

Part.3では代表的な銘柄の紹介 

という流れでまとめています。

今回はPart.2 製造工程についてお話ししていきます。

製造工程の概略

①製麦、②糖化、③発酵、④蒸留、⑤熟成、⑥混合、瓶詰め

知らなくてもウイスキーは楽しめますが各工程はすべてウイスキーの味や香りを左右する重要な役割があり、蒸留所ごとに様々な工夫がこらされ様々な方法がとられています。

ウイスキーをより深く楽しみたいなら間違いなく知っておいて損はない内容です。

ウイスキーの銘柄を選ぶにあたってそのウイスキーの情報を調べると、どんなポットスチルで蒸留されていて、どんな樽で熟成されていて、構成原酒(どんなブレンドになっているか)は何か、などなど...といった情報が得られます。

その情報の意味や、それによってウイスキーにどのような影響が得られるのかを知ることは非常にに重要です。

各製造工程はスコッチウイスキーモルトウイスキーのものを基本にしています。グレーンやその他のウイスキーは蒸留の方法が違ったりしますがもほとんど同じ工程で造られています。蒸留の工程ではその違いについても解説します。

ひとつずつ見ていきましょう。

①製麦 ~モルティング~

ウイスキーの製造工程で、一番初めに行われるのが大麦を麦芽(大麦麦芽)にする「製麦」といわれる工程です。まず原料の大麦を糖化させるのですが、糖化に必要となるのが、大麦が発芽するときに生み出される酵素です。

大麦に含まれるでんぷんはそのままでは発酵させることができないので、これを糖に変換する必要があります。

どうするかというと、大麦を数日間水に浸けると発芽が始まります。この時にできる酵素の働きによってでんぷんが糖に変わります。

この時に使われる水が仕込み水といい、水に浸ける桶(浸麦槽)のことをスティープといいます。

仕込み水には蒸留所ごとにその土地の特徴がでます。水の硬度や含まれる成分によってウイスキーの仕上がりに影響があります。

一般的には酒造りには穀物の成分を抽出する能力の高い軟水のほうが向いているといわれており、多くの蒸留所が軟水を使用しています。しかし酵母の増殖にはミネラルは必要であり、硬水を使用している蒸留所もありますので一概には言えません。

次に、大麦は発芽して成長しすぎると酵素が失われてしまうので今度は、発芽を止める(芽止め)ためにピート(泥炭)や石炭を焚いて、大麦を乾燥させます。発芽の成長を止める乾燥の過程で、ウイスキー独特のピート香やスモーキーさが生まれます。

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ここまでが麦芽の準備、製麦です。

②糖化 ~マッシング~

製麦されたモルトは次にモルトミルという機械で粉砕されます。粉砕されたモルトはグリストと呼ばれます。

粉砕の具合も重要で、粉砕具合の荒いほうから順にハスク、グリッツ、フラワーと言い、粉砕比率はハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1となるようにするのが一般的です。

このようにする理由は、

粉砕の後にマッシュタンと呼ばれる糖化槽に移されるのですが、そこでハスクが沈殿してそれ自体が濾過層を形成して濾過させるためです。この比率が崩れハスクが多すぎると液体が通り抜けすぎて濾過にならず、フラワーが多いと目詰まりを起こしてしまいます。

糖化槽に移されたモルト(グリスト)はお湯が加えられ攪拌されます。これにより発酵に必要な糖液(麦汁、ウォート)を抽出します。これを「糖化(マッシング)」といいます。3,4回お湯を加えて抽出してを繰り返します。ここに使われる水も仕込み水を使います。また、3回目以降の抽出液は次の糖化工程の1回目の仕込み水として使用したりします。

糖液を抽出し終えた絞りカスはドラフと呼ばれ家畜の飼料などとして使われます。

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③発酵 ~ファーメテーション~

続いて発酵です。

抽出された糖液はまず20℃程度に冷却されウォッシュバックと呼ばれる発酵槽に移され、ここに酵母が加えられ発酵を行います。この時、糖液が冷却されていないと酵母が死んでしまいます。

ウォッシュバックの材質は蒸留所によって異なり、オレゴンパインやダグラスファーという木材やステンレス製の桶などがあり、サイズも1万リットルから10万リットルと幅広く、様々なものがあります。このウォッシュバックの材質などによってもウイスキーの仕上がりに影響があります。

酵母は糖を分解しアルコールと炭酸ガスを生成します。この発酵工程は3日程度で終了しこれによってもろみ(ウォッシュ)ができます。このときのもろみのアルコール度数は約8%となります。

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木製ウォッシュバック

④蒸留 ~ディスティレーション~

蒸留については長くなりますので蒸留器編と蒸留法編に分けて説明します。

蒸留器編

蒸留の工程はモルトウイスキーとグレーンウイスキーで使用する装置などが異なります。

モルトウイスキーはポットスチルという銅製の単式蒸留器が使用されます。このポットスチルは蒸留所によって形状や大きさが異なり蒸留所の個性を出すとても大切なものになります。以下のように形状によってそれぞれ名前がついています。

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ポットスチルは前述したとおり蒸留所によって異なり、同じものはありませんので一概にこの形だからどのような酒質になるか、と言い切れるものではありませんが傾向として

ストレート型は気化したアルコールが滞留することなくまっすぐ上昇しますので力強く重ためな酒質になり、

ランタン型やバルジ型はそのくびれやふくらみによって滞留を起こし、なおかつ接する表面積の広さによってクリーンで軽めの酒質になる傾向にあります。

また、ポットスチル上部のその先のパイプにつながる部分をラインアームといい、このラインアームの角度によっても酒質は変化します。

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蒸留所のことを調べたり見学に行ったりする際にこの知識をいれておくだけで、ポットスチルをみて出来上がりのウイスキーのイメージを膨らませるのがとても楽しくなりますね。

ここでグレーンウイスキーに使用する蒸留器についても簡単に触れておきます。

グレーンウイスキーには連続式蒸留器というものが使われます。

これは連続的にもろみをいれることができ、蒸留機の中で何度も繰り返して蒸留が行われるため、連続式蒸留と呼ばれます。単式蒸留とは異なり一度蒸留を行うだけでかなり高いアルコール度数(90度程度)にすることができるため効率的に生成ができ大量生産が可能です。

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引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/連続式蒸留器

連続式蒸留器は複雑な構造でここでは説明できませんので割愛させていただきます。

蒸留法編

スコッチウイスキーを例にすると基本的には2回蒸留します。(例外的に3回蒸留もあり)

一回目の蒸留を行うポットスチルをウォッシュスチル(初留釜)、二回目の蒸留を行うポットスチルをスピリッツスティル(再留釜)と呼びます。

この時ポットスチルの加熱には伝統的な石炭やガスを使った直火炊きと、スチームパイプを蒸留釜の中に通す方法があります。後述のスチームパイプを使用した方法は直火炊きと違い内部の清掃など取り扱いが楽なので現在はこちらが主流となっています。

一回目の蒸留で得られる初留液をローワインといい、アルコール度数はもろみの約3倍になるので22~25%のものが得られます。

二回目の蒸留では一回目には行わないミドルカットという工程があります。これは蒸留の初めと終わりに生成される液体にはアルコール度数が高すぎたり低すぎたり、余計な香味成分が含まれたりすることがあるためこれをカットします。この工程を行う装置をスピリッツセイフといいスチルマンという職人の手で行われています。

二回目の蒸留とミドルカットにより、一回目の蒸留で得られたローワインは最終的に20~30%の量になります。

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スピリッツセイフ

⑤熟成 ~マチュレーション~

蒸留を終えたままの状態のお酒はニューポット(ニューメイク)と呼ばれ、これではウイスキーとは呼べません。このニューポットを樽に入れて寝かせる工程を熟成といいます。

樽に詰める前にまずはアルコール度数を調整します。ニューポットはそのままでは70%程度のアルコール度数ですがこれでは樽の木材の成分を抽出しずらく、加水して63%程度に調整することで知樽材の成分を溶出しやすくします。

樽の木材は基本的にオークの木でできています。アメリカンオーク、ヨーロピアンオーク、スパニッシュオークなどに限定されます。この木材の種類によってウイスキーに与える風味に違いがあります。

それに加えてスコッチウイスキーはバーボンの熟成に使われた樽、シェリー酒の熟成に使われた樽など、ほかのお酒の熟成に使われた樽で熟成を行うのが一般的です。この樽による差は非常に大きく、ウイスキーの風味を大きく左右します。また、バーボンの熟成には新樽による熟成が義務づけられています。

樽のサイズも様々で以下のような種類があります。このサイズによっても熟成のスピードや樽材の成分の溶出具合が変わってきます。

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⑥瓶詰 ~ボトリング~

熟成を終えたウイスキーはボトリングする内容に合わせて、すべてタンクに集められ混合します。これは同じ工程を踏んで作られたものでも熟成庫(ウエアハウス)内で、樽の置かれた位置や高さなどの環境の差による仕上がりの差があり、その差を平均化するために行われます。

これをヴァッティングといいます。ヴァッティングによってウイスキーブランドとしての安定した品質を守ることが不可欠です。

ここで、ブレンデッドウイスキーにおける異なる蒸留所のウイスキーブレンドして混合し、そこで初めてウイスキーの味を完成させる工程をブレンディングといいます。この二つは似た工程ですが意味が異なります。

さらに、樽から払い出されたままのウイスキーはアルコール度数が高いため加水を行い度数を調整します。こうして普段我々が目にするウイスキーの度数になっています。加水を行わずそのままの度数でボトリングしたものをカスクストレングスといいます。

この時加水される水は仕込み水とは言いません。多くの蒸留所では不純物を取り除いた精製水を使用していますが、稀に仕込み水と同じ水を使用している蒸留所もあります(ブルックラディ、グレンフィディックスプリングバンクなど)。

またボトリングの際に、沈殿物や澱(おり)などが出ないように冷却ろ過(チルフィルタード)を行います。しかしこの工程によりウイスキーの風味を損なう可能性があるといわれており、最近では冷却ろ過を行わずボトリングするもの(ノンチルフィルタード)も増えています。

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長々と書いてしまいました。最後まで読んでいただいた方ありがとうございます。

まだ書きたい内容がたくさんありますのでそれはまた別の記事で特集したいと思います。