ウイスキーの製造方法 ~バーボン編~
以前の記事、「ウイスキーってどんなお酒?Part.2」ではスコッチウイスキーの製造工程について解説しました。
今回はバーボン編ということでスコッチウイスキーとの違いなどに触れながらバーボンの製造工程を解説したいと思います。
アメリカンウイスキーの定義
今回も結論的な定義からお話しします。
「穀物を原料に190プルーフ(アルコール度数95%)以下で蒸留し、オーク樽で熟成し、80プルーフ(40%)以上でボトリングしたもの。」
この定義はアメリカンウイスキーの定義であってバーボンウイスキー(ストレートバーボンウイスキー)の定義はまた異なります。
バーボンの定義はアメリカンウイスキーの定義をさらに狭義にしたものになります。ライウイスキーやコーンウイスキーの定義などもいろいろありますが、バーボンウイスキーの定義をご紹介しておくと、
「原料の51%以上がトウモロコシで160プルーフ(80%)以下で蒸留し。内側を焦がしたオークの新樽に125プルーフ(62.5%)以下で樽詰めし、熟成したもの。さらに2年以上熟成されたものがストレートバーボンウイスキー。」
その他ライウイスキーやコーンウイスキーの定義については、原料違いで度数などは基本的に同じです。
ここで抑えていただきたい最低限のポイントは「アメリカンウイスキー」 = 「バーボン」ではなくアメリカンウイスキーの中の一種にバーボンがあるということです。
原料
定義のところで原料について前述しましたが、バーボンは51%以上がトウモロコシを使用することが法律で義務付けられていますが、実際に一般的なバーボンでは60~70%程度のトウモロコシと、ライ麦、大麦麦芽の3種類を使います。この原料の混合比率をマッシュビルといいます。
この原料の比率により味わいは変化します。
特徴をまとめると、
トウモロコシが多ければ、まろやかで甘さがしっかりと強調され、
ライ麦が多ければ、スパイシーでドライなフレーバーとオイリーな口当たりに、
ライ麦の代わりに小麦を使う蒸留所もありますが(マーカーズマークなど)、
小麦が多ければ、角がなくマイルドな味わいになります。
大麦麦芽はというと、通常10~15%使用され、でんぷんを糖化する役割を担います。大麦の味わいを加えるというよりは糖化工程のために使われるということです。
そのためバーボンではより酵素の力が強い六条大麦を使用します(スコッチでは二条大麦)。
製法
糖化 ~マッシング~
まず初めに行われるのはトウモロコシなどの粉砕です。ここではハンマーミルというものが使われます。トウモロコシ、ライ麦、大麦麦芽は別々で粉砕され、これを巨大な糖化槽に(クッカー)移します。その後、煮沸し糖化されます。クッカーはそれ一台で加熱と冷却ができるようになっています。
ここから少々難しい内容になるのですが、
穀物と仕込み水をクッカーに投入するとき、仕込み水に合わせてバックセットと呼ばれる蒸留廃液を加えます。蒸留廃液とは蒸留した後に蒸留器の中に残った液体です。特にバックセットは蒸留後の残液(スティレージまたはスロップ)に含まれる固形物を分離した液体です。これを加えることでクッカー内の酸度を上げバクテリアなどの繁殖を抑えると同時に糖化に適した環境にします。
この手法はバーボン独特のサワーマッシュ方式といいます。これはケンタッキーバーボンだけでなくテネシーでもどこでもこの方式を使用しています。
バーボンに使用される仕込み水は硬水で、蒸留にはビアスチルというコラム式の連続蒸留器を使用します(詳しくは蒸留の項で)。
発酵 ~ファーメンテーション~
バーボンにおける発酵槽はファーメンターといいます。木製の発酵槽を使っている蒸留所は少なく、ステンレス製で作られていることが多いです。
ここで使われる酵母は蒸留所ごとにこだわりがあり、オリジナルの酵母を使用しています。また、独自に培養を行っている蒸留所がほとんどです。
試験管のようなサイズから発酵させながら4段階くらいのサイズを経て、イーストタンクと呼ばれる巨大なファーメンターに次々に投入していきます。
発酵にかかる時間は約4,5日程度で、アルコール度数は9%程度になり、もろみ(ビア)が出来上がります。
ファーメンターにはスコッチにあった泡切り装置がありません。モルトウイスキーと比べて油脂分が多く濾過を行わないことから泡が立ちにくいためです。
蒸留 ~ディスティレーション~
一般的な連続式蒸留器は粗留塔(荒くざっくり蒸留)と精留塔(精密にしっかり蒸留)がペアになっています(2塔式)。
しかし、バーボンウイスキーでは蒸留にビアスチルと呼ばれる円筒式コラムスチル(連続式蒸留器)が一塔式になっているためと、ダブラーと呼ばれる精留装置(こちらも連続式蒸留器)がセットになっています。蒸留所ごとに1~3組程度のビアスチルとダブラーを所有しています。
ビアスチルで加熱して取り出された一度冷却してスピリッツにし、それをダブラーにて精留を行います。
前述したとおり、バーボンは160プルーフ(アルコール度数80%)以下での蒸留が義務付けられているが、ビアスチルで約110~120プルーフ、ダブラーで130~140プルーフとなるので最終的に65~70%程度で蒸留されることになります。
スコッチの94%で蒸留されるのと比べると度数が低いということはそれだけ香味成分が残っているということになります。
熟成 ~マチュレーション~
熟成の工程にバーボンの最大の特徴といってもいい特徴があります。それは熟成に新樽しか使わないということです。内側を焦がした新樽のみを使用することも法律で義務付けられており、これによりバーボンの甘く力強い香味をもたらしています。
樽の材質はほぼアメリカンホワイトオークで、サイズもバレル(180リットル or 200リットル)のみです。
ここでの蒸留所ごとのこだわりは樽の内側の焦がし(チャーリング)の程度をどのようなものを使うか。チャーリング具合は製樽業者の作るチャーリング具合のグレードが1~4まである樽のうち、3か4の強く焦がした樽(ヘビリーチャー)を使用します。
それから、樽詰めの際のアルコール度数をどの程度にするかと言うところにもこだわりが出ます。バーボンの法律では160プルーフ以下で蒸留して125プルーフ以下で樽詰めする必要がありますが、この樽詰め時のアルコール度数のことをバレルエントリーといいます。
熟成庫の特徴はスコッチでいうところのラック式が多いのですが、バーボンの場合は木製の骨組みで組まれていることが多いです。一般的に20段以上の積み上げが行われます。
熟成の際、ラックの高層と低層で熟成の進行が異なりますがスコッチでは低層が好まれ、バーボンでは高層が好まれるという違いもあります。特にバーボンでは熟成庫の最上階を「イーグルス・ネスト(鷲の巣)」と呼ばれます。
バーボンが高層の樽の熟成がよしとされるのは、アメリカの四季による寒暖差で熟成は早く進むのですがその影響を強く受けるからとされています。しかし、最近では極端な熟成が進んだものはよくないとする考え方もあります。そこも蒸留所ごとの考え方が反映されるところでもあると思います。
瓶詰め ~ボトリング~
ボトリングについては80プルーフ(40%)以上でボトリングすることと、水以外加えてはいけない法律があります。スコッチではカラメル色素による着色が許可されていますし一般的によく行われています。しかし、バーボンでは着色は許可されていません。
スコッチでいうところのヴァッティング(原酒同士を混ぜ合わせること)は、バーボンではミルグリングといいます。名前は違いますが同じ工程だと思ってもらっていいと思います。
特に2年以上熟成させたものは「ケンタッキー ストレート バーボン」と名乗ることができます。
まとめ
最後にポイントをまとめますと、
原料は、スコッチは主に大麦、バーボンは主にトウモロコシ。
仕込み水は、スコッチは軟水、バーボンは硬水。
蒸留は、スコッチは単式蒸留器、バーボンは連続式蒸留器。
樽は、スコッチは他酒の古樽、バーボンは新樽。
瓶詰めは、スコッチは着色可、バーボンは着色不可。
ここまで読んでいただけた方は飲みの席でちょっとだけウイスキー語れるようになったと思います。また、誰かの役に立てられることを願ってます。